パルテノン 柳広司

パルテノン (実業之日本社文庫)

パルテノン (実業之日本社文庫)


パルテノンは行ってきたばかりなので思わず買ってしまった。どの話も楽しめた。決して体験することのできない時代と場所を生き生きと描き出す描写力。悪と思っていたものが正義になり、愛だと思っていたものが裏切りになり、またその逆へと次々に展開するスピーディーな展開。そしてそのなかで明らかになっていく数々の伏線と最後に明らかになる一筋縄ではいかない結末。


でもなによりも僕は「はじめに」が面白かった。そこに描かれている「店のオヤジ」には私のイメージする知を愛した古代ギリシャ人の後ろ姿が透けて見えるきがした。


久しぶりの勢いでもう少し


今、あるパルテノンは残骸でしかない。1687年、ヴェネチアの人々はパルテノンに武器弾薬とともに立てこもったトルコ人に攻撃を加え神殿ごと破壊。その後1799年、今度はイギリス人外交官がかろうじて残った部分をはぎ取ってイギリスに持ち帰った。


でも、残骸だからこそ僕らがいろいろと想像をふくらませる余白が残ったのかもしれない。もし完璧な姿のままいまに残っていたら柳さんは自分が描いた物語の登場人物と同じように「我を忘れたようにぽかんと口を開けて見あげる」ばかりだったかもしれない。


パルテノンの丘を上った人はだれもが、できあがったばかりの姿はどんなであっただろうと想像する。そうした想像する行為も含めて今のパルテノンがある気がする。


あの遺跡からこれだけの物語を書いた柳さんの想像力はすごい。というべきか、残骸となった現代においても人間の想像力を刺激し続ける建物をつくった古代ギリシャ人はすごいと言うべきか。